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No.02
書道家 成澤 秀麗 NARISAWA SHUREI

揺らがない軸を持つためのカギは、丹田の使い方にあった。

Profile
NARISAWA SHUREI

書道家。第23回東京書作展内閣総理大臣賞受賞。書道教室/社員研修/ワークショップ/メディア出演等の活動をしながら、極真空手を学んでいた。そのほか、心理学と書道の関連性に着目し、大学院にて⼿書き⽂字の研究も行なっていた。現在は書道教室を行いながら、遊び文字や墨絵にも挑戦している。

道場に一歩足を踏み入れたときの空気は、神社の境内のようだった。

私が極真空手を習い始めたのは、書道教室を開いて4年ほど経った頃でした。それまではキックボクシングを習っていたのですが、引っ越しを機に家の近くの極真空手の道場に通うようになり、瞬く間に極真の魅力にのめり込んでしまいました。まず驚いたのは、道場に足を踏み入れたときの空気感。まるで神社の鳥居をくぐったときのような、研ぎ澄まされた空間がそこにはありました。また、先輩方が決してネガティブな発言をしないところにも驚きましたね。弱音や悪口を言うことなく、ただひたすら稽古に励むのみ。その理由が「口を慎む」という極真の精神があるためだと知り、ますます極真に惹かれました。そんないくつもの魅力を知り、私も極真空手を学びたいと思ったんです。

呼吸と体はリンクしている。稽古を始めて気づいた、極真と書道の共通点。

稽古に通い続けてしばらくすると、「精神を統一して良い動きをするためには、呼吸が大切」ということを教わりました。手足だけを動かそうとするのではなく、おへその下あたりにある“丹田”に力を入れて呼吸をすること。それが緊張をほぐすためにも体全体を動かす上でも大切なのだと。実はこの呼吸法、書道にも通ずるところがあります。書き始めに息を吐き、書き納めに息を吸う。慣れない内は、つい身体をブラさないように息を止めてしまいがちですが、呼吸と書を一体にさせることこそが良作に結びつきます。手先だけでなんとかしようとするのではなく、深い呼吸をして精神を統一し、同時に丹田に力を込めて体全体を使うこと。空手道も書道も同じ「道」だからこそ、体と呼吸がリンクしていることが共通しているのだと気づきました。道場で体感覚や呼吸に集中することの意味を学んだからこそ得られたものだと思います。

極真の精神から学んだ、ブレない軸の持ち方。

他にも、極真空手から学んだ大切な考え方のひとつに「動じない」ということあります。チャンスでも窮地でも、あたふたせずに一本の太い軸を自分の中に貫くこと。これは極真空手のみならず、あらゆる生き方に通ずるものだと思います。特に今のコロナ禍では、見通しが立たない不安や苛立ちによって余裕をなくしている人々が大勢います。怒りの⽭先をどこに向けて良いかわからず、やむを得ず他⼈を批判してしまうのかもしれませんが、本当に大切なのは自分の内部に目を向けることだと思います。つまり、体の中心に自分ならではの軸を持つこと。それが、「動じない」ことにつながり、心の余裕をもたらすのではないでしょうか。老子の「上善如水」から派生した「心如水」のように、器用に形は変えながらも、本質を保ち続ける心を持つことが大切なのだと思います。

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