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No.04
鍼灸師、柔道整復師 山本 ゆき YAMAMOTO YUKI

強さとは、人を助ける力だと気づいた。これからは、自分がだれかの背中を支える番。

Profile
YAMAMOTO YUKI

鍼灸師、柔道整復師。京都女子大学・大学院修士課程卒。27歳のときに極真空手を習い始める。2008年より、極真館全日本女子空手道選手権大会重量級4連覇。2009年より、全極真世界ウエイト制空手道選手権大会 日本代表3回、2019年に世界大会3位。全アジア空手道選手権大会 軽量級優勝。全米オープントーナメント 無差別級優勝。その他国際大会優勝多数。

「極めたい」という想いに、人はきっと手を差し伸べてくれるはず。

何かを極めようと本気になることは、周りの人を動かす。それが極真空手を通じて強く感じたことであり、自分の現状に悩みを抱える人々に最も伝えたいことです。他人がサポートしてくれるのを頼っていたり、社会が変化するのを待っていたりしても何も変わりません。けれど目標に向かって自らアクションを起こせば、それを見ている誰かの心を動かし、きっと力を貸してくれるはずです。「世界大会に行ってロシア人と戦ってみせる」と私が宣言したときもそうでした。行けるはずがないと周りは皆苦笑いしていましたが、諦めずに努力し続けていると、組み手の相手をしてくれたり応援の声をかけてくれたりする人が増えてきたのです。宣言通り世界大会に行ってロシア人選手と戦ったときには、ものすごい数の人が喜んでくれました。「やっとここまで来れた」という達成感と共に、「こんなにも多くの人が協力してくれたんだ」と気がついたのを覚えています。

一人の空手家であると同時に、一人の母でもある。その経験が、鍼灸師としての今につながる。

現在は、鍼灸師として女性専用の個人治療院を開いています。人を治す仕事である鍼灸を通じて、疲労回復や女性ならではの身体の不調の改善と同時に、心の面でもサポートしたいという想いで2019年に創業しました。心の面のサポートというのは、女性だからという理由で社会の障壁や子育てに追われて夢や目標を諦めてしまい、自分の現状に悩みを抱えている女性の精神面に寄り添うということです。諦めてしまうのはとてももったいないし、たとえ続けるのが無理でも別の選択肢があるよということを伝え、女性たちに前向きに夢を追いかけてほしいと思っています。その背景にあるのは、私自身が女性空手家として社会からの評価やイメージと戦ってきた経験です。空手を極める道中には、「女性だ」ということで立ち塞がる数々の障壁がありました。私が子どもを産んだ頃は今ほど女性の社会参画も進んでいなかったので、子どもを育てながら空手をするなんて言語道断だと各所から批判されたんです。子どもを連れて道場に行けば嫌な顔をされたり、ネットで「なぜ子どもを育てずに空手を続けているのか」とバッシングを受けたり。止まない批判にとうとう堪えきれなくなって空手を辞めようとしたとき、通っていた道場の先生が引き止めてくださいました。「子育ては母親一人でやるもんじゃない。だめだと言われるなら道場の全員で育てればいい。だから続けなさい」と。それからというもの、道場に行けば私の代わりに子どもにミルクをあげたり抱っこをしてくださったり、体格のいい男の人たちが一生懸命あやしてくれたりと、本当に道場の全員で子育てを支えてくださいました。だからこそ、鍼灸師として人を治す仕事をしようとしたとき、まず頭に浮かんだのは女性やママさんの顔だったのです。

強くなることは、他人を助けられるようになるということ。「口慎んで、他に益す」を、これからも心に宿し続ける。

極真空手を始めた当初、「強さって一体なんだろう」とずっと考えていました。稽古を続けてきた今思うのは、「強さとは、他人を助けられるようになること」ではないかということ。もっと言えば、強くなることが他人を助けることにつながるのではなく、一人でも多くの人を助ける力を得るために、強くなる必要があるのだと思います。27歳で極真空手を始めて、全日本、世界大会と様々な大会に出て結果を残すまで、たくさんの人に支えられてきました。子育てをしながらの世界への挑戦は、私一人の力では到底無理だったでしょう。強くなったからこそ、今度は私が誰かを助ける番です。そんな気持ちにさせてくれたのは、極真の稽古と、「口慎んで、他に益す」という教えがあったからこそ。鍼灸の治療をしていると、ママさんたちから「私のこれからの人生、子育てして終わりですかね…」という相談を受けることがあります。そんな時、「大丈夫。私もそう思っていたけど、ここまで頑張ってこれた。きっとあなたもまだまだ成長できるはず」と自分の経験を伝えることで背中を押すことができます。極真から学んだこの精神を活かして、これからも多くの人々を支える強い人でありたいです。

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